本と写真と珈琲が好き

書きたいこと、写真に残したいもの。思いつくまま、気の向くままに。

一行の力

本に書かれた文章や歌詞の中で、たった一行か二行の言葉がなぜか忘れられないことがある。

 

中学だったか高校だったかの頃、夜眠りかけた後で目を覚まし、そのとき隣の部屋から聞こえていたテレビの音が「火曜サスペンス劇場」のエンディングテーマだった。火サスの初代エンディングテーマといえば有名な岩崎宏美の『聖母たちのララバイ』だが、その次のエンディングテーマ(これも岩崎宏美が歌っていた)を覚えている人はあまりいないだろうと思う。

 

 迷子の子猫を抱き上げた両手で 私を抱きしめて

 

うとうとしながら耳に入ってきたその歌詞が、なぜか深く印象に残り、いつまでも忘れられなかった。だからといって当時レコードを買うということも別になく、そのときはそのままほっておいた。当然曲名などもわからない。

そしていまこのネット時代。断片的なキーワードでたいていのことは調べられてしまう。なんとなくこの歌詞を思い出し、ついこの前、30年越しにその歌を聴いてみたくなり、ネットで調べた。曲のタイトルは『家路』。そしてiTunesではこれまた、たいていの古い曲は買えてしまう。そのまま検索し購入。そして30年ぶりに聴くことができた。大人になってあらためて聴くその歌詞には、また違う味わいがあった。

 

同じように、一度聴いて忘れられなくなった歌詞がもうひとつある。

 

 ああ 幸福(しあわせ)を1グラム あげましょう

 ああ 何もないけれど 手のひらの 上に乗せて

 

これは飯島真理の『1グラムの幸福』。「ワクワク動物ランド」というテレビ番組の二代目エンディングテーマだ。このさびの部分を聴いた瞬間、当時思春期まっただ中、情緒不安定に悩まされていた自分(かなり深刻だった)は、なぜかものすごく救われたのである。雪の中をえっちらおっちら歩いていく小動物(何の動物かはよくわからなかった)の映像とこのさびの歌詞が妙にマッチしていて好きだった。この曲は、その後二十代の頃にアルバムのCDで手に入れ、今でも大切に持っている。飯島真理の声はとても好きだ。

もういちどこのエンディングテーマを動画で見たいと思いYouTubeで何度か探してみたが、いまだどこからもアップされていないらしく、見ることができない。G4のCMですら見れるというのに。いや、G4というのは80年代の痔の薬なんですけど。

 

言葉というのは不思議なものである。言葉というパーツは基本的には万人に同じものだ。たまに造語を使ったり奇抜な言い回しをしたりすることはあっても、基本はみんな同じパーツとしての言葉を組み合わせ、同じ文法に従い、文章をつくる。そう考えると、それはレゴブロックとなんら変わるところがない。それがときに、人を動かすほどの力を持つ。

「文章は芸術ではないと思う」と言った人がいて、それもそうかもしれないと半ば認めながら、それでも、と僕は思う。文章によって感じられる「その人」の手触りというものが、たしかにある。言葉以上のものが言葉という入れ物に乗って伝わり、読んだ人、聞いた人にいろんなことを感じさせ、思わせ、行動させる。そして、これは僕がよく好んで使う表現だが、麻薬のように人を酔わせるのである。

それはやはり、まぎれもなく芸術なのではないか、と。