本と写真と珈琲が好き

書きたいこと、写真に残したいもの。思いつくまま、気の向くままに。

5月20日

5月20日は不吉な日である。

 

正確に言うと、5月20日前後だが、この時期はたいてい何かしらの不運に見舞われる。

 

2010年だったか2009年だったか忘れたが、すっかり日が落ちて真っ暗な堤防を自転車で走っていると、一瞬わき見をした瞬間に車止めの鉄のポールが目の前に迫っていて、あわてて急ブレーキをかけたら後輪が60度くらい持ち上がり(数字はイメージです)、体が前に投げ出され、ポールのてっぺんに胸を強打した。

誰も通らない真っ暗な河川敷で、30秒くらいのたうち回り(これもイメージ)、その間まったく息ができなかった。決して大げさでなく、このまま死ぬのかと思った。

ところが人間というのは案外死なないもので、次の日の午後気分が悪くなってきたので病院へ行くと、実際は骨にヒビすら入っていなかった。ただ当時はくしゃみをするだけで胸に激痛が走ったので、その診断は今でもちょっと疑っているが・・・。

 

ちなみに映画のダイ・ハード(die hard)って、「なかなか死なない」という意味だって知ってる人、どれくらいいるんでしょうね?「大ハード」じゃないですよ。すいません、どーでもいい話でした。

 

そして2011年は、忘れもしない、10年以上勤めていた会社を退職するきっかけになる事件が起こった年。それは会社へのある苦情から始まって、さながら取調室のような尋問を受けた挙げ句に、ここは刑務所か北朝鮮かと思うような職場(当時の課長は人格が異常だった)を辞めることを決意したわけだが、その通報者がなんと飲み友達だったという。そういう信じられないことが起こったのもその年の5月20日前後だった。

想定外と言えば、3・11も「想定外」なんてよく言われていたが、自分の生活や価値観も3・11と連動するようにすっかり様変わりしていくことになる。厄年もこの年から始まった。

余談だが、阪神大震災の年も厄年と重なっていたのである。

 

というわけで、毎年この時期になると、自然と身構えてしまう。2度あることは3度ある。まったく不合理とわかっていながらも、人間はどこかでそういう考えを捨てられないものだ。去年は、どうせ何も起こるまいと油断していたら、3連休を利用して札幌に行ったとたんに高熱で2日間寝込んだ。3日目もかなり辛かったが、その時期に札幌でしか見れない映画を、這うようにして観に行った。

 

ここ何日間か、胃の重たさ、疲れやすさを感じている。バイオリズムが狂う時期というものが人間にはあるのかもしれない。よく言う「五月病」だって、新入生や新入社員が慣れない環境に適応できなくて起こるとされているが、案外純粋に体の問題からも来るのかもしれない。

 

満月の夜も、イライラしたり嫌なことが起こったりする確率が高いと思っていたが、ここ何ヶ月かは大丈夫なようだ。

「狼男」「犯罪率の増加」など、満月に関する都市伝説もあるが、やっぱり多少理由があるのでは?とついつい考えてしまう。

 

というわけで、できるだけおとなしく5月20日をやりすごそうとしているのだが、果たして今年はどうなることやら。

 

 

最近よく感じること

最近よく感じること。といっても、日々いろんなことを感じているわけで、その中のひとつということなのだが。

 

自分には技術が足りない、とよく思う。キャリアが足りないと言い換えてもいいかもしれない。朝早く目覚めると、その後の浅い眠りの中で、起きているときには意識に登ってこないような自分の中の根源的な悩みが持ち上がってくる。浅い眠りの後は、たいてい後味の悪さだけが残る。昼寝の後もたいがいそうだ。そのときによく感じるのが、上に書いたようなことだ。

 

自分はそこそこ文章も書けるし、そこそこ写真も撮れるし、そこそこ英語のリスニングもできるし、そこそこコーヒーも美味しく淹れられるし、そこそこスイーツも作れるし、読むのは遅いけどそこそこ本もたくさん読むし、その気になればダンスやエアロビやヨガだってできる。

 

問題は、それがすべて「そこそこ」というところだ。この道では誰にも負けないというものがない。プロとして経験を積んできて、この分野なら食っていけるという自信のあるものがない。さらにいうと、時間ができたら、寝食を忘れてこれに打ち込みたいというものがない。

 

時間ができたら、とにかくやりたいこと。

人によって、それはたとえば編み物だったり、楽器を弾くことだったり、文章を書くことだったり、家具や家を作ることだったり、絵を描くことだったり、プログラミングすることだったり、作曲をすることだったり、コーヒーを焙煎したりすることだったりするかもしれない。とにかくそれをやっていると、寝食を忘れ、心が落ち着き、仕事のない時間をすべてそれにつぎ込んでも、むしろ休息のように感じる何か。自分には、そういうものが足りないのではないか。子供のころはマンガを描くのが大好きだったし(お粗末なものだったが)、それさえやっていれば晩ご飯すらもどかしいくらい夢中になったことがたくさんあったと思うが、大人になってからそれを見つけ出すのは難しい。

 

何かひとつでもそういうものがあると、とても強いだろうと思う。好きでやっているんだから、やっている当人は全く苦痛とは感じないし、時間どんどんつぎ込むから、どんどん上達していく。それによっていつかお金を稼ぐことすらできてしまうかもしれない。

 

自分にとっては、文章を書くことや写真を撮ることがそれになれればいいと思っているが、残念ながらそこまではなれていない。一種の義務感を感じているし、なにより、めんどくさいと思うことが多々ある。よいしょっと重い腰を上げる感じが消えないのだ。

 

かつては、図書館司書になりたいと思って大学の通信講座を受けたこともあったし、翻訳の仕事をしたいと思って翻訳の通信講座を受けたこともあった。それでも、実際に仕事を得るまでやりきったという経験がない。ある程度行ったところで、プレッシャーに負けてしまうのだ。そして自信がなくなって自問してしまう。「お前は本当にこれがやりたいのか?」と。限界点を超えて、今までに何かひとつでもものにしていたら、今の自分のあり方もかなり違っていただろうか。

 

そう、ことはそんなに大げさでなくとも、とにかく何か打ち込めるものが欲しいのである。それをやり始めたら最後、中断するのが惜しくてしかたなくなるような何かが。土いじりでもいい、家具作りでもいい、料理でもパン作りでもいい、楽器を弾くのでもいい。「めんどくさい」「疲れる」という気持ちから完全に離陸して、フローの状態になれる何か。

 

文章だって、毎日書いていれば、そのうち書くことそのものが気持ちよくなるかもしれない。そんな気持ちでこのブログも書いている。実は、簡単なスケッチもさらさらっとできるようになりたいと思っている。「描写する」という点では、文章もスケッチもよく似た表現方法だ。そう思って、モケラモケラでの月一回の美術部にも通っている。

 

とくに結論も用意せず書き始めてしまい、そしてやっぱり結論は出ないのだが、最近そんなことをよく感じている。そして、人がなにかしらに打ち込んでいるのを見て、うらやましいとも思ったりする。

 

このブログは完全に自分のために書いているものだ。自分の中のもやもやしたものに形を与えられるのは嬉しいし、本当は公開しなくてもいいが、その余波で誰かがクスッと笑ってくれるようなことがあれば、さらにちょっとだけ嬉しい。そこまでいかなくとも、単に誰かの思考に影響を与えられるだけでもいい。

 

そうして書いた後は、いつだってちょっぴり後悔する。それでも削除しないのが、自分に課したルールだ。

 

 

古民家カフェ

最初にここを知ったのは何の情報紙だったか、もう忘れた。

ずっと行きたくてうずうずしていた場所がある。

深川の古民家カフェ「花さんぽ」。

 

深川駅のすぐそば、駅を出て旭川方面に少し歩いた場所にその店はある。

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最近では、古い物とか、古い建物にとにかく弱い。

「人間が古くなったからだろう」と言われそうだが、そこは強く否定できないのが困ったところ。年月を重ねたものの味というか良さが、年々ますます心に沁みるようになってきてしまった。

 

だからといって、ほんとにただ古いだけのものが好きかといったら、それも違うと思う。単に昭和を焼き直しただけのものなら、ただの懐古趣味として見向きもしないだろう。古いものを新しい視点でとらえ直し、再構成しているからこそ、きっと魅力を感じるのだと思う。

 

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確かに、一目で昭和を思い出させる佇まいではある。しかし、こういうおしゃれさが昭和にあったかと言えば、それもまた違うだろう。ただ単に古いだけのものと、古さを新しい視点からとらえて再構成したものは、根本的に違うのだと思う。見た目のインパクトにだまされてしまうが、そこには絶妙な洗練とバランスがあるのではないだろうか。「変わらないために、変わり続ける」というのはそういうことじゃないかと思う。

 

ちょうどお昼頃に着いたが、お客さんはいない。ついにお店を出るまで、1人の来客もなかった。平日とはいえ、ちょっと心配になってしまう。

座敷の端の席についた。そこからみた景色は、こんな感じ。白黒にすると、まったく昭和の写真と勘違いしてしまいそうだ。ただし、ファンヒーターがなければ。

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座敷はこの他にももう一か所あって、意外に広い店内である。店内の音楽は、古いミニコンポ(90年代のミニミニコンポではない)から流れていた。あるものはとことん活かすというスタンスなのかもしれない。そういえば、今でもうちの押し入れにはパイオニアのミニコンポが1台眠っているな。

 

こんな建物に似合わず、メニューは意外と洋風。パスタも捨てがたかったが、この日はハンバーグを食べることにした。みそ汁がついて中途半端に和風なところは、洋食屋というよりも定食屋風というべきか。でもとても美味しかった。

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食後のコーヒーも美味しくて、しばらく読書を楽しむ。いやー、落ち着きますね。

 

さすがに店の奥まで写真を撮らしてもらうのは悪いかと思い(最初に撮影OKかどうかの確認はとってあった)、肩にカメラをぶら下げて帰ろうとしたところ、「あちらは撮らなくていいですか?」と向こうから声をかけてくれた。口数の多い店主ではないが、さりげない心遣いにちょっと感動。お言葉に甘えて何枚か撮らせていただく。

 

このカウンター席も、萌えポイントのひとつ。今度来たときはここに座ろうと思う。

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先頃引退した、JR北海道の特徴的な赤い鈍行列車。精巧なジオラマが飾ってあった。

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店主はカエル好き?カエルの置物がたくさん置かれたカウンター。

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深川はいつもは札幌へ行く途中に通り過ぎるだけの場所だったけど、これで時々行く理由ができた。深川の街も、よく見るとなかなか味わい深いものがある。それにこの周辺の田園風景は、何ともいえない良さがあるのだ。初夏の頃の田んぼの風景は、毎年通るたびに心引かれるものがある。深川発・増毛終点の留萌本線は、実は全国の鉄道マニアにもかなり人気の路線らしい。夏になると、明らかに単なる移動手段ではなさそうな客が乗降客の半分位を占めるようになる。

 

深川は旭川からは車で40〜50分の隣町。気軽にドライブできる距離だ。気が向いたらまたふらっと来てみよう。

小樽・札幌・ゲストハウス その5

焙煎体験が終わったら、あとは特に予定はない。

すぐ帰ってもいいし、せっかく来たのだから適当にぶらぶらしていってもいいと思っていた。明日の午前中に旭川で用事があるが、今日中に帰れば問題ない。

 

結局、札幌の友達と円山動物園に行くというカワムラさんにご一緒させてもらうことになった。

 

ゲストハウスやすべえに別れを告げ、路面電車ですすきの駅に出る。実は、北海道に住んでいながら市電に乗るのは初めてだ。乗り方がわからなくてなんとなく躊躇していたのもあるし、特に乗る必要に迫られなかったこともある。まさか、道外の人に乗り方を教えてもらうことになるとは思ってもいなかった。しかし、チンチン電車の風情は結構好きだし、初めての体験はうれしい。函館に行ったときも乗りたいと思いながら結局乗らなかったし(昔から本当にチャレンジしない男だった)、大学時代もすぐ裏に都電荒川線の終点があったにもかかわらず、結局乗らずじまいだった。あー、今東京へ行ったら、確実に乗るのに。そういえば、鎌倉でも江ノ電に乗らなかったな。いや、乗ったか?記憶があいまいだ。

中島公園から大通なんてすぐだとなめていると、結構痛い目にあう。正直、市電で行こうと提案してくれたのは、渡りに船だった。

道のど真ん中にある、幅の狭いプラットフォームはなんだか新鮮だった。料金は170円で後払いなんですね。非常にわかりやすい。

 

春の陽気の中をのんびり揺られながら、終点すすきの駅に到着。

カワムラさんのお友達のイクエさんとの待ち合わせ場所は、三越前のライオン像だ。ライオン!?と思ったが、行ってみると確かにライオンがあった。札幌では待ち合わせ場所の定番らしい。これも、長年北海道に住んでいながら全然知らなかった。

イクエさんとは、カワムラさんが前回の札幌滞在時にソーシャルアパートメントで知り合ったらしい。かわいいというよりも、カッコいいという形容詞が似合う女性だ。

 

地下鉄東西線円山公園駅へ。天気がいいせいか、駅前から公園にかけて人がごった返している。公園の桜はすっかり散ってしまっているようだが、花見客でかなり賑わっていた。焼き肉の煙と匂いが立ちこめている。北海道と言えば、天気のいい休日は野外で焼き肉である。庭のない家でも、車庫の中でやってしまう。これが全国的な常識でないことは、北海道を出てみないとなかなかわからない。

 

が、今日の目的は円山動物園。緑に囲まれた動物園へと続く遊歩道を歩いていく。この遊歩道のことは、札幌での写真撮影会のときに知った。マイナスイオンたっぷりの癒される小路だ。

小路を抜けると、すぐ目の前に動物園の正門がある。街からちょっと移動しただけでこんなにいい環境があるのは、札幌ならではである。もし自分が札幌市民だったら、休日のたびにここを訪れるのではないだろうか。

年間パスポートが1000円だったが、札幌市民ではないので当然600円で普通にチケットを買う。

 

円山動物園の中には、どういうわけかセブンイレブンがある。このセブンイレブンは、園の内側と外側両方に接していて、どちらからも出入りすることができる。当然、外側から入った人は園の中に入ることはできないので、園内から入ってきた人には入店時にラミネート加工されたカードが手渡される。これがお店を出るときの通行証になる。円山動物園セブンイレブンに入ったことはなかったので、なるほどー、と感心してしまった。こんな形で施設に組み込まれているコンビニは全国でも珍しいんじゃないだろうか?

 

外はぽかぽか陽気なので、アイスクリームでも食べたいなと思っていたら、なにやら同行2人が缶ビールを買っている。動物園でビール!考えもしなかった。しかし、あたたかい日に野外でビールを飲むのは大好きだ。自分も方針転換して缶ビールを1本買った。安上がりだけど、最高の贅沢!

せっかくなので、ビール片手におふたりの記念撮影。

 

そしてこっちは自分のビール。動物園だと、心なしかビールもさわやかに見える。

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最近の円山動物園の話題といえば、シロクマの赤ちゃんが生まれたこと。行列誘導用の柵が設けられていて、前日までの混雑ぶりを物語っていた。この日は連休最終日のためかそれほど人は多くなく、あっさり見ることができた。バズーカを構えたオジサンオバサンが前をでーんと陣取ってはいたが。

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ひとしきり動物園を楽しんだ後は、3人で居酒屋で飲むことに。

行き先でいろいろ紆余曲折があったあとに、西11丁目近辺のお店に落ち着いた。行き当たりばったりで入ったお店なので名前もよく覚えていないけど、落ち着いた雰囲気のいいお店だった。

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道外から来た人にとって、やはりジンギスカンは食べたい物の筆頭だろうが、道内に住んでいたって意外と普段はそんなにジンギスカンなど食べないものである(少なくとも自分は)。たまに食べると、やっぱりおいしいと感じる。

 

お酒がまわるほどに、話も弾む。ふたりともそれぞれ昨日、今日初めて会った人なのに、旧知の仲のようにまったく違和感がない。

最近は(というか結構以前から)、1回何千円の飲み代というものが全く割にあわない不当な出費だと考えていて、よほどの相手でないと飲み屋には行く気にならない。が、この日はむしろ、まだ物足りないと思うくらいであった(いや、たいしたお金使ってないけどね)。

そして、カワムラさんと話していると、また岡山に行きたい熱が再燃し出した。行ったことはないけど情報から行きたいと思っている自分と、実際に滞在してみてその良さを肌で知っているカワムラさんとで、最近意気投合している点である。ぜひ近いうち、岡山で再会を果たしたい。

 

そして、無情にもタイムリミットはやってくる。旭川行きのJRの最終は11時5分。

楽しかった時間にすっかり満足しつつおふたりと別れ、札幌駅へと向かう。

帰りのJRの中では、もーこの上なくぐったりでした。

 

(やっと)おわり。

 

 

小樽・札幌・ゲストハウス その4

早朝6時。

なぜか早起きのお年寄りに混じって中島公園を散歩している。肌寒いが天気は良好。

 

この日の朝は、真下のベッドから響いてくるすさまじいイビキで、半ば強制的に寝室から追い出された。いくら生理現象とはいえ、あまりにも堪え難く、ちょっとだけ殺意をもよおした(ちょっとだけね)。そういう現場からはさっさと離脱するに限る。

あとでリビングでこのことを話すと、スタッフの絹張君は、「ゲストハウスあるあるですね」とあっさりしたものである。まあ、確かによくあることなのだろう。

 

中島公園の桜もやはりほとんど散ってしまっていて、かろうじて八重桜が残っている程度だ。自動販売機があったので、缶コーヒーを買って、しばしベンチング。

適当にぐるっと公園を1周したところで、宿へ帰る。途中のセブンイレブンでおにぎり1個と高橋製菓のカステーラを買った。

 

やすべえの朝食は、食パンを自分で好きな量だけ切って食べることができる。飲み物は、宿泊者に限り全メニュー300円。パンを超厚切りにして(というか、なってしまった)、ホットコーヒーを注文した。あとで横から聞いた話によると、このパンは「薄切りにした方がおいしい」らしい。(なんてこった!)

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本を読んだり、昨日撮った写真をFacebookにアップしたりしてのんびり過ごしていると、マスターの河合さんが出勤してきた。ゆうべチェックインの時にはいなかったから、対面するのはこの日の朝が初めてだ。服装はジャージ姿。円山の自宅から走って通勤しているとのこと。なんて体育会系!さわやかすぎる。

焙煎体験の予約時間は11時から。しばし待たされる。

 

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これが今日の焙煎体験で使う機械なのだろう。ゆうべから気になってはいた。今までも時々見たことのある焙煎機の形である。しかし、なぜか家庭用の小さいコンロが差し込んであるのと、空気調整のつまみが明らかになんかの瓶の蓋を転用しているのがビミョーに気になる。中途半端に手作り感があるのだ。こういうものなんだろうか。

「これはプロ用の機械ですか?」と聞くと、「プロですから!」という自信に満ちた答えが返ってきた。

 

実際に機械を動かす前に軽いレクチャーを受ける。周到にプリントまで用意してくれている。手焙煎は今までもしたことがあったので、知識としては知っていることばかりだ。ハゼ(豆が膨張して皮がはじける現象)、浅煎り・深煎り・中煎り、○○ロースト(煎り具合の段階ごとに名前がある)、等々。それでも、何か知らないことがあれば聞き逃すまいと、一字一句真剣に耳を傾ける。

 

最初は河合さんがひととおりの手順を見せてくれる。焙煎度合いは、フレンチロースト。1ハゼと2ハゼの境界が今までよくわからなかったのだが、河合さんの言う通り、確かに1ハゼと2ハゼの間には若干の空白がある・・・気がする。(ハゼには2種類あるのだ)このハゼを見極めることが、焙煎の度合いをコントロールするうえで非常に重要なポイントになる。

 

教わった手順をもとに、今度は自分で焙煎してみる。

生豆を焙煎機に入れ、コンロに火をつける。煙臭くならないようにするためには、適度に空気を抜いてあげるんだそうだ。豆の状態を確かめるための引き出しみたいな部分があって、そこを開けたときに煙が出てくるようならつまみをひねって空気を調整する。それを繰り返すことで煙がこもることを防げるらしい。

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自分は中煎りに挑戦。2ハゼが始まってすぐに火を止める。クールダウンの機械のスイッチを素早く入れ、引き戸を開けて焙煎機の中から豆をざーっとその中に出す。

ここはもたもたしていてはいけないと教わったところ。なぜなら、余熱で焙煎が進んでしまうからだ。緊張する一瞬だった。

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あ、この写真は、実は河合さんがやったやつですね。自分がやったときは写真に撮れなかったので。

 

そしてクールダウン。缶コーヒーのCMなどでよく見るこの場面は、実は焙煎ではなくクールダウンしているときのものだったんですね。この時初めて知りました。

下の穴からは、チャフ(弾けた皮)を吸い出してくれる仕組みになっているのだそう。スバラシイ。この辺は家庭では真似できないところだ。家のなかでうちわで仰ごうものなら、たちまち皮がそこらじゅうに飛び散ってしまう。自宅で焙煎するときは外に持ち出して仰いでいるが、一般的にはみんなこの問題をどうやって解決しているのだろう?

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焙煎中はなんとなくムラがあるように見えて心配だったが、出来上がってみるとこんなにきれいな色に仕上がり。いやはや、道具ってすばらしいですね。

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後日飲んだコーヒーの味は、もちろん最高でした。それ以上に、香りが。

 

河合さんは、欠点豆のハンドピックは最小限にしかしないのだそうだ。というのも、いちおうスペシャルティコーヒーと銘打っているからには、ある程度現地の人の仕事を信頼してあげたい、ということらしい。

今でこそフェアトレードという概念も浸透してきてはいるが、基本的にコーヒー産業というのは低賃金の過酷労働。先進国の人々の優雅なコーヒータイムは、多くは発展途上国であるコーヒー豆産地の人たちの厳しい生活によって成り立っているということを忘れないようにしたい。ちなみにハワイコナのあのバカ高い値段は、おいしいからというわけでもなんでもなく、単に人件費が高いからなんだそうですね。まともな賃金を払えば、コーヒーだってそういう値段になっちゃうわけです。これは河合さんから聞いて初めて知りました。

 

また、コーヒーは基本的に嗜好品であるべきだ、というのが河合さんの哲学。飲み方は人それぞれであっていい。好きなように飲めばいい。「コーヒーはブラックで飲む物だ」なんて言って、すべての客に始めから砂糖やミルクを出さないなんてことは、やっちゃいけない。

また、酸味の強い浅煎りのコーヒー豆は苦手だと言う人が多いが、これも飲み方の問題であって、砂糖をたっぷり加えればワインのような味、そこにさらにミルクを加えれば、まるでミルクティーのよう。そんな味わい方もあるのだと、実際に作ってみせてくれた。飲んでみると、まったくおっしゃる通りだった。

 

そんな感じで、本格的な焙煎体験だけでなく、蘊蓄でもすっかり楽しませていただきました(実はこういう方が自分は好き)。そして、「岡本珈琲」完成です。

ていうか、これ、みんなに同じことやってあげてんですか?

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とまあ、書いてみると、河合さんはいかにも実直な職人さんのように思われるかもしれませんが、本当は実にユーモラスで面白い方です。

今は、カフェラテのグラスに軽量用のビーカーを使うのが最高にクールなんだそうです。もし流行ったら、その発祥は札幌ゲストハウスやすべえであると記憶しておいてください。ないと思うけど。

 

そんな感じで、また今日も最後まで終わりませんでした。

つづく。

 

 

 

小樽・札幌・ゲストハウス その3

そして舞台は札幌へ。

たった3日間のことなのに、書き出すと想定を大幅に超えて長くなる。後悔先に立たず。

つづくと言った以上は、書かねばなるまい。楽しみに待っている読者はまさかいないと思うが。

 

2日目の宿は、札幌ゲストハウスやすべえ。

ふだんは札幌で宿をとることなどありえないのだが、今回はいくつかの偶然が重なって、こういう運びとなった。

ぶっちゃけ、いつも札幌の滞在時に泊まっている江別の妹の家に泊まっていいかと打診したところ、つっぱねられたのである。

理由は、あえて聞くまい。だめと言われたら、それまでである。

 

そして、もうひとつ理由がある。Facebook友達のカワムラさんが札幌に来ていたことだ。4月いっぱい滞在の予定を、5月8日まで延長したという。それはぜひとも会ってみたい。

そのカワムラさんが泊まっていた宿が、ゲストハウスやすべえだ。ネットで調べてみると、5日の夜はどうやらベッドに空きがあるらしい。午後3時から会う予定だったが、日が暮れるのなんてあっという間だ。時間を気にしながら会うのはつまらない。ならば、そのまま同じ宿に泊まってしまえば、寝るまでゆっくりおしゃべりができるではないか。せっかく遠くから来てくれている人とはできるだけゆっくり会いたい。そんな単純な考えから泊まろうと思い立ったわけだが、さらにこの宿に泊まりたいと思わせる理由がひとつあった。

予約手続きをしていると、ある文字に目が釘付けになった。

 

「焙煎体験付き 3500円」

 

なんと、この宿では珈琲豆の焙煎体験ができるのか!宿泊者はたったの500円上乗せするだけである。それに、焙煎した豆を100gおみやげとしてもらえるらしい。ほとんど豆を買うようなものだ。珈琲好きで、しかもあわよくば将来そういう仕事をしてみたいと思っている私が飛びつかないわけがない。

説明が足りなかったが、このゲストハウスは「河合珈琲」というカフェも兼ねている。自家焙煎珈琲の販売もしており、扱っている豆はこだわりのスペシャルティ珈琲である。

 

そんなこんなで、カワムラさんとテレビ塔近くのワールドブックカフェで待ち合わせをすることになった。行ってみると、満席の順番待ち。GWをなめていた。彼女はまだ到着していないようだ。

入り口付近で考えあぐねていると、エレベーターの扉が開き、知っている顔とまさかのご対面。野外音楽イベント「ハレバレパレット」の主催をしているかわごんだ。まさか、こんなところで会おうとは夢にも思わなかった。世の中狭い。PAのなんとか君(名前忘れた)とフライヤー設置のお願いに札幌まで来ていたらしい。及ばずながら自分も、フライヤーの配布に少しだけ協力させてもらう。つーか、実行委員だし。

 

そして、カワムラさんと無事ご対面。

諸事情あって、ちょうど旅行に来ていた彼女の母親ともご一緒することになり、なんだか謎のご一行様。初めて会う人の親御さんにその日に会うっていう体験は、そうそうないのではないだろうか?そういうハプニングもまた楽し。

 

せっかく札幌に来たのだから、ちょっと変わった場所に案内したいと思い、「古本とビール アダノンキ」へ向かう。

古本とビール。ちょっと意外な組み合わせだが、店主は単に自分の好きな物を組み合わせただけのようだ。酔っぱらって読書どころじゃないんじゃ?とつっこみたくもなるが、それは置いとく。こういう変なお店は大好きだ。(ほめてます)

単に自分が来たかっただけなんじゃないの?と聞かれれば、その通りと答えるしかない。ここでビールを飲むのは、実は今回が初めてである。このお店は、東急ハンズの2件隣くらいの、第2三谷ビルという超あやしげなビルの中にある。実はけっこうここが穴場なのだ。個性的な店がひしめきあっている。観光客は、まずここに来ようとは思わないだろう。ただ今回行ってみると、内装が妙に小ぎれいになっていて、あやしげ感が減っていて残念な印象も受けたが。

 

カワムラさんの職業は、ライターだ。しかもフリーの。

外見からはライターという職業がにわかに思いつかないくらい、釈由美子夏菜を足して2で割ったような(よくわからんね)、かわいい女性である。本人は自分のことを精神的ひきこもりとか精神的ニートとか自称しているが、そんな印象は全く受けない。

知り合ったきっかけは、ざっくり言うと僕が彼女のブログを読んだことである。こまかい経緯を正確に書くとけっこう長くなるので割愛するが。

実は私がFacebookで何か(特に政治や社会への憤りなど)を書くときに一番念頭にあったのはカワムラさんのことだ。底の浅いことや不正確なことを書くとすぐに見透かされてしまいそうだという思いから、いつだって緊張していた。そのくらい、彼女は感性や視点が鋭い(と私は思っている)。こんな野暮ったいことばかり書いている自分はきっと嫌われているだろうと思っていたときもあったし、逃げ出したいという思いに駆られたときもあった。(し、実際に逃げ出そうともした)

しかし、今こうして会えている。不思議なものだ。直接会って話していると、親密さを覚えさえもする。話していることなんて、他愛のないことだ。Facebook上で出すような話題などほとんど持ち出さない。正しいか正しくないか、そんな乾ききった理屈よりも、人と人との間には温度というものが必要なのだ。

 

・・・というのは、私の一方的な思いで、相手がどう受け取ったかはまた別の話だ。哲学的な話はこのくらいにしとこう。

 

ビールを3杯くらい飲んだところでお店を出る。すでに7時を回っている。もう1軒、狸小路のFAB Cafeで1杯だけコーヒーを飲み、JRで帰るカワムラさんのお母さんと駅に向かう道で別れ、やすべえへと向かう。

 

やすべえに着いたのは、チェックインの最終時間である9時ピッタリ。我ながら見事な計算能力だ。やすべえは中島公園近く、市電沿いの道路からちょっと脇に入った古い商店街の中にある。

チェックインの後、簡単に利用の説明を受ける。外国人の宿泊者がちらほら。

 

落ち着いたところで、おみやげとして持ってきた旭川名物「新子焼き」(若鶏の半身焼き)を一緒に食べる。これが実はめっぽううまい。当然、久保あつ子さんの「ぎんねこ」で買ったものである。

そういえば、晩ご飯がまだだった。最近は、めっきり食欲が湧かない体質になっている。カワムラさんが小樽で買ってきてくれた小樽ワインがおいしい。まるでジュースのようにフルーティだった。

ワインは結局1本あけてしまい、ほろ酔いの幸せ気分。12時ごろまでとりとめもない話をして、1日が終わった。

 

結局、焙煎体験までたどり着かず。

つづく。

 

小樽・札幌・ゲストハウス その2

小樽2日目。

ゲストハウスとまやで目覚めた。

 

ゆうべは一番風呂をいただき、12ベッド満室でにぎやかな中「とまや宴」に参加した。

イタリア人のニコラをはじめ、年代も性別もまったくのカオスである。

一人旅でこういう宿に泊まるという人たちは、きっと「変わり者」という点で性質が一致しているのだろう。宿泊者は、たいていはすぐに意気投合してしまうようだ。もちろん、ほとんど顔を見せずに寝室に引っ込んでしまう人も居るし、そんなにワイワイやらずにおとなしくしてたって、それは自由だ。私はどっちかというと、後者。なんでもありなのがゲストハウスのいいところ。

宴会は12時ですっきりお開きとなった。

 

そもそもこの宿を知ったきっかけは、「フォト蔵」という写真共有サイトで知り合った、「火灯」(かがり)さんだ。手宮線跡地で毎年開かれている鉄道写真展のときにとまやに泊まったというブログ記事をみて、1度行ってみたいと思った。

最初に来たのは小樽雪あかりの路の時、その次は、2年前の年末。いずれも、冬。こんな季節に、しかもこんなに宿泊者が多いときに来たのは初めてである。

 

雑誌「スロウ」に紹介されたこともある。たしかに、スローな宿。

また、2年前だったか、NHKのニュースでも紹介された。ここは、「励ましの坂」という勾配20%以上の坂を登った先にあり、歩くだけでも心臓がバクバクいうほどの坂を毎年チャリで登ろうという無謀なチャレンジャーがいる。それをニュースで特集したわけだ。

 

とまやは、通称ベルさん・サリさん夫婦と、ゼンタ君、メイちゃんの4人という家族構成。

ベルさん・サリさんは、僕と同い年である。それぞれ浜松、広島出身の旅人で、最後に小樽の古民家に落ち着いてゲストハウスを始めた。右側の宿泊棟は、完全にセルフビルドである。すごすぎ。

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さて、今回お目当てだった手宮公園の桜は、予想通りというか事前の情報通り、もう完全に終わっていて、ただその代わりというか、とまや前の桜はちょうど泊まった日の翌朝に満開となった。

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朝食は、とまやに泊まる楽しみのひとつ。

魚、目玉焼き、納豆、味付け海苔、みそ汁。日本の朝飯ですなあ。これにギョウジャニンニクの醤油漬けまで出てきて、とにかくご飯が進む。3杯くらい食べただろうか。

イタリア人のニコラ君は、糸を引く納豆と格闘していた。

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ゼンタ君の号令で、庭でラジヲ(ヲが重要)体操が始まる。第2までやっちゃいました。こんなの、レコードであったんですね。スピーカー付きのプレーヤーは年代物。

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何の話からか、話は腹巻きの話になり、ベルさんが自分の腹巻きを引っ張り出してくる。自分で装着してみたニコラ君はすっかりハラマキが気に入ってしまい、「どこで買える?」と聞いてくる(もちろん英語で)。ベルさんが、ハラマキを買えるなんとか洋品店の場所を教えていた。昨日からみんな懸命にカタコト英語でコミュニケーション。というか、ほとんど日本語。スシヤ・ハシゴ・シマカゲ(飲み屋)とか言ってたし。

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この日はとにかくいい天気。桜は本当にきれい。

桜の下に作り付けられた滑り台の上からは、また違った視点が楽しめ、縁側に集まったみんなを見下ろすアングルで写真が撮れる。

サリさんもまたカメラ好き。カメラは伝説の名機ニコンD40を使っている。よくここから撮った写真を、ブログやFacebookにアップしている(その写真がなかなかどうしてすばらしい)。サリさんと話をしていると、だいたいカメラ談義になる。

庭では自撮り棒やレンズスタイルカメラまで登場し、しばしみんなで撮影大会。

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そして、この日はちょうどこどもの日。

近くに住む、建築業を営む通称「かものはし」さんは、桜の木の枝にブランコを作ってくれた。ほんとにあっという間に作ってしまった。手際のいいことこの上ない。

ゼンタ君もメイちゃんも、大喜び。

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その後お昼になって、その「かものはし」さんはお昼ご飯を食べに、南小樽方面へ向かうと言う。ついでに車に乗せてくれるというので、お言葉に甘えることにした。というわけで、荷物をまとめてとまやとはお別れ。この後、3時には札幌で人と会う約束がある。

 

事前に聞いていたが、向かった先のパスタ、いや、スパゲッティ屋さん(この辺はこだわりがあるらしい)「ぐるぐる」のマスターは、旭川の音次郎さんと昔からのなじみらしい。なんでも、音次郎さんの歌に衝撃を受けたせいで、その時していた日本一周の旅を中断し、北海道に住みついてしまったらしいのである。

音次郎さん、どうもその頃からただものではなかったようだ。

しばらく音次郎さん話で盛り上がり、ちゃっかり「ハレバレパレット」のチラシまで貼っていただくことに。ラッキー。

このお店、毎月1回、「満月ライブ」というのをやってるらしいですね。行ってみたい。

たらこスパゲッティ、おいしくいただきました。

そして、ご一緒したかものはしさんも、ログハウスを作るなかなかすごい人のようである。縁があれば、何かでお世話になりたいものだ。

 

余裕をもって1時半にはかものはしさんと別れ、ぐるぐるを出てすぐそばの南小樽駅へと向かう。駅前の桜が陽光で照らされてきれいだ。そして、札幌行きの電車に乗る。

 

つづく。